<直近2週間の動き>

【Fort Hill LogiX】10月29日、米サウスカロライナ州の建設監査・アドバイザリー会社Fort Hill Associates(2006年創業)から分かれた別会社が、自社の出来高請求レビュー基盤「LogiX」を親会社の外へ開放したと公表しました。リリースの題名そのものが構造を言っています。「標準化された建設監査メソドロジーの上に構築されたLogiXが、資本プロジェクトのエコシステム全体に開放された」。
中に組み込まれているのは「2006年以降のFort Hillの建設監査経験に基づくテスト手続」です。そのうえで、使う側は自社のメソドロジーを設定して使うこともでき、監査・アドバイザリー会社は「自社のメソドロジーと職業的専門家としての判断を適用できる」としています。利用者として「競合のアドバイザリー会社」を名指しで挙げ、親会社からのデータ隔離と、顧客データをAIの学習に使わないことも明記しています。
人の関与の書き方も具体的です。「AI支援、ただし人の監督付き」に加えて「LogiXがレビューを実施する場合、公認建設監査人が各レビューにサインオフする」。誰がサインオフするかまで書いた、この2週間の海外中堅・中小で唯一の発信です。証跡についても「各例外事項を、裏付け資料を添付して返す」「締結済み契約に対して全明細行を突合する」としています。対象は建設プロジェクトの出来高請求で、財務諸表監査ではありません。日本との接点はありません。

 

【Forvis Mazars】10月27日、ネットワーク本体に初のGroup Chief AI Officerを置いたと公表しました(就任は2026年9月付)。パリ拠点のR&D責任者が兼務し、職務は全インターナショナル・サービスライン横断で「当ファームのデータ品質、スキル体系、責任あるAIのフレームワークを統括する」こと。グループの変革責任者のコメントは「品質・信頼・主権を戦略の中心に置き続ける」です。人事と体制の発表であり、監査手続の話ではありません。人のレビューについての記述もありません。職務の対象は全サービスラインとされているため、日本メンバーファームも形式上は射程に入りますが、リリースに日本への言及は一切ありません。

 

【Crowe】10月27日、税務部門向けのAIを「統制付き自動化」として提供する範囲を拡大すると公表しました。Alteryxの基盤の上に税務の業務ロジックと統制付きワークフローを組み合わせ、複雑な税務作業を反復可能な単位に分解して段階的に移行させるものです。表現が明快です。パートナーの発言として「AIはスピードを生むが、信頼を生むのはガバナンスだ」。リリース本文には「組み込みの検証・品質チェック・追跡可能なプロセスが、AI生成アウトプットへの信頼を高める」「プロセスを可視・理解可能・反復可能・監査可能にする」とあります。ただし人の監督という語は使っておらず、「ガバナンス・品質・職業的判断を維持しながら」までです。対象は税務であって会計・監査の判断ではありません。Crowe Globalの日本メンバーファームは東陽監査法人ですが、日本への言及はありません。

 

【Fieldguide】10月20日に米国の事務所ネットワークAline Accounting Partnersの採用を公表して以降、新しい採用の発表が止まっています。各国のメソドロジー保有者と組む動き(英国のMercia、カナダのCPA Canada)も、9月29日以降止まったままです。日本公認会計士協会との接点は、この2週間も確認できませんでした。
採用発表の文言には一貫性があります。Varney(10月8日)もAline(10月20日)も、人の監督を明記しています。一方、Casewareの先行導入プログラムに参加した事務所や、Aprio×Intuitの発表は人の監督を書いていません。書く・書かないが会社ごとにばらばらなのではなく、系統で分かれています。この2週間の3件を加えると、監査の判断に触れる発表は書き、税務・体制・ガバナンス一般の発表は書かない、という線で説明がつきます。

 

【Grant Thornton US】10月28日、自社の税務実装プラットフォームがVertexの年間表彰を受けたと公表しました。プラットフォームが「AIとRPAを使う」としていますが、表彰であり新サービスの発表ではありません。日本メンバーファームは太陽有限責任監査法人ですが、波及はありません。

 

【その他】BDOネットワークでは、10月12日にBDO UK & IrelandがFieldguideのプラットフォームを展開すると公表して以降、新しいメンバーファームの採用発表は出ていません。Casewareの先行導入プログラムの第2陣も出ていません。窓の外ですが、今回あらたに2件を確認しました。HLB Internationalが9月8日にInfloとの提携を拡大し、155か国・58,538名のメンバーファームに監査調書・メソドロジー管理のプラットフォームを提供すること。そしてBDO UKが6月29日にMindBridgeを監査実務へ展開したことです。BDO UK & Irelandは分析系(MindBridge)とエージェント系(Fieldguide)を並走させていることになります。
そして、この2週間も海外本体から日本メンバーファームへの波及はゼロでした。一方で日本側では、仰星監査法人が10月21日に国内ベンダーのSapeetと監査調書の査閲AIを共同開発したと公表しています。仰星監査法人は現在Nexia Internationalの加盟事務所で、BDOの日本メンバーファームは三優監査法人です。両者が合併して「監査法人BDO Japan」になるのは2027年7月1日の予定で、仰星はその前に、海外本体とは別系統で自前のAIラインを確保したことになります。

 

<あなたが明日からできること>

【バックオフィスはこう変わる】
自分たちが長年積み上げた手続を、そのままAI製品にして外に売る。これを、建設監査に特化した専門会社がやりました(従業員規模は公表されていません)。しかも器(プラットフォーム)とメソドロジー(手続)を分けて設計し、使う側が自社の手続を載せられるようにしている。ソフト会社だけが製品を作る時代ではなくなりつつあります。手順が言葉になっている業務を持っている組織は、それ自体が資産になります。

 

【バックオフィスが押さえるべきポイント】
外部の監査人や委託先を評価するとき、「人の監督があります」と書いてあるかどうかで判断しないでください。この2週間の3件を見ると、監査の判断に関わる発表だけが人の監督を書き、税務や体制の発表は書いていません。書いていないことは、人が見ていないという意味ではなく、そもそも書く習慣がない領域だという意味です。聞くべきは「誰がサインオフするか」です。これに名前と役職で答えられる相手は信用できます。

 

【今日からの5分トライ】
自社の経理で「手順書がある業務」と「人の頭の中にしかない業務」を、それぞれ3つずつ書き出してください。5分で終わります。前者はAIに渡せる候補、後者は渡す前に言葉にしなければならない候補です。この仕分けが、来年のAI導入の出発点になります。

 

【中長期でこうついていく道筋】
中堅規模のネットワークは、自前で作るのではなく特定のベンダーに寄せる方向に動いています。監査調書の管理も、分析も、エージェントも、ネットワーク単位でプラットフォームを決める流れです。自社が中堅規模なら、同じ判断をいずれ迫られます。そのときに効くのは、自社の手続が文書になっているかどうかです。手続が文書になっていれば、どのプラットフォームにも載せ替えられます。なっていなければ、ベンダーの標準手続をそのまま飲むことになります。

 

<出典>
出典:[Fort Hill LogiX/PR Newswire(2026年10月29日)]
https://www.prnewswire.com/news-releases/built-on-a-standardized-construction-audit-methodology-logix-is-now-open-across-the-capital-project-ecosystem-302923528.html
出典:[Forvis Mazars Group(2026年10月27日)]
https://www.forvismazars.com/group/en/who-we-are/news-publications/latest-news/forvis-mazars-group-s-first-chief-ai-officer
出典:[Crowe/PR Newswire(2026年10月27日)]
https://www.prnewswire.com/news-releases/crowe-helps-tax-departments-operationalize-ai-through-trusted-business-logic-and-governed-automation-302920933.html
出典:[Fieldguide ブログ]
https://www.fieldguide.com/blog
出典:[Grant Thornton US(2026年10月28日)]
https://www.grantthornton.com/insights/press-releases/2026/october/grant-thornton-named-the-vertex-implementation-provider-of-the-year
出典:[HLB International × Inflo(2026年9月8日)]
https://www.hlb.global/wp-content/uploads/2026/09/Inflo-x-HLB-International-Press-Notice-September-2026.pdf
出典:[BDO UK × MindBridge(2026年6月29日)]

BDO UK and MindBridge Partner to Accelerate Data-Driven Audit


出典:[BDO UK & Ireland × Fieldguide/International Accounting Bulletin(2026年10月13日)]
https://www.internationalaccountingbulletin.com/news/bdo-to-deploy-fieldguide-ai-platform-across-uk-and-ireland-practice/
出典:[Sapeet/PR TIMES(2026年10月21日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000128.000026498.html

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