<直近1週間の動き>
【デロイト トーマツ】9月29日、「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2026-2028」を公表しました。2026年5月から8月にかけて上場・非上場企業を対象に実施し、397社から回答を得たものです。生成AIの管理体制について、原文はこうです。「入出力データを記録・保管している企業は11%」「出力結果に対して定期的または人による監査やレビューを行う企業は8%」。また生成AIの個人利用について、社内ガイドラインの策定と周知を実施している企業は5%にとどまり、74%が「実施していない、わからない」と回答しています。
AI導入は進んだが、その出力をレビューする仕組みはほとんど存在しない。これを言っているのは評論家ではなく、Big4の一角が397社に聞いた調査です。「AIの出力をどう検証するか」という方法論の市場が空いていることを、教える側が自分のデータで示しました。
一方、AIガバナンス・フレームワークASTRAM™は、公式ページを10月4日に開いて確認した限り、2026年2月の公表内容から変化していません。統制活動は「約80」という総数のみで内訳は非公開、「トーマツが自らの財務諸表監査で直接適用するものではありません」という自己限定もそのままです。ただし同ページには「将来的には規制当局や日本公認会計士協会等からの最新の基準や実務指針なども踏まえたうえで、トーマツの財務諸表監査におけるAI監査のメソドロジーにも応用することを視野に入れています」という一文もあります。いまは降りてきていないが、降りてくると本人が書いている、ということです。
なおデロイトは5月28日に、内部監査・J-SOXのAIエージェントについて20案件で「業務工数の50%以上が削減されたことを確認」と発表しています。設計は、1体が監査手続を実行し、別の1体が正確性を独立評価する二重構成で、不整合時は「判断根拠の提示とともに人間によるレビューを依頼する機能」を持つとしています。仕組みは示されていますが、何を見るかの観点リストは公開されていません。
【KPMG・あずさ】
9月28日、Forensic & Risk Advisoryが「日本企業の不正に関する実態調査(Fraud Survey 2026)」を公表しました。原文は「データ分析を活用した不正検知への関心は86%、そのうち、AI活用への関心は95%に達しました。一方、実施中の企業はそれぞれ17%、7%にとどまりました」。関心が95%で実施が7%。デロイトの調査と同じ空白を、別の角度から測った数字です。
2026年8月19日に約400人体制で新設されたKPMG AiXについては、プレスリリース一覧を9月1日から10月4日まで確認しましたが、9月18日以降の続報や具体的なサービス化の発表は確認できませんでした。設立時のリリースには「AIのアウトプットに対する説明可能性・透明性の担保」「AIモデルの検証・信頼性評価(モデルリスク管理)」とありますが、これはモデルの検証であって、出力が会計的に正しいかの検証ではありません。CFO機能変革・経理DXのサービスページも確認しましたが、記載は生成AIのカスタマイズ、プロンプト作成支援、リスク管理体制の整備支援までで、AI出力の検証・証憑突合・監査対応の記述はありませんでした。
【EY新日本】
10月1日付でF&C部門(Forensics & Control)を新設し、約180名を集約しました。9月18日の発表で予告されていたもので、「三線モデル」を「部分最適」ではなく「全体最適のアプローチ」で支援するとしています。AIに関する記述は「AIを活用した効率的なデータ分析のマネージドサービス」の一行だけで、どこまでをAIが担い、どこから人の判断なのかというフレームは示されていません。180人規模の体制ができても、評価の方法論そのものは公開されていない、ということです。9月11日に開始したJDLA「C認証」の取得支援サービスについても、この期間に続報はありません。監査法人が審査する側ではなく、取得を支援する側に立つという構図は変わっていません。
【PwC Japan】
この期間のリリースの有無を確定できませんでした。プレスルームのページが動的読み込みのため一覧を取得できず、AI監査研究所の活動状況についても9月18日以降の新規公表物を確認できていません。これは「動きがなかった」ではなく「到達できなかった」です。
ただし確認できた範囲で、PwCの立ち位置は特徴的です。財務・経理領域における生成AI活用支援のページ(最終更新2025年11月5日、提供はPwC Japan有限責任監査法人とPwCビジネスアシュアランス合同会社)には「専門家によるレビュー、データガバナンスの徹底が不可欠」「根拠提示付きで半自動化」「監査対応可能なログの整備」「専門家レビューを前提とした統制一体型の運用体制」「品質と監査耐性を担保」とあります。「監査耐性」という言葉を使っているのは、日本の大手でここだけです。ただし何を・どう検証するかの項目レベルの中身は公開されていません。
【アクセンチュア・アビーム・NRI・ベイカレント】
いずれも、この期間に「AI×経理財務の検証」に関する発表はありませんでした。アビームは2026年のニュース一覧を全件確認したうえで、9月17日のNotionとの協業(経理を含む業務別カスタムエージェントの設計・実装、Admin Controls・監査ログ・課金管理の設計)が最も近いものでしたが、これは運用のログであってAI出力の会計的検証ではありません。同社の財務会計・経営管理のサービスページ、決算・財務報告改革のページも確認しましたが、後者には生成AIの記述が一切ありませんでした。NRIは8月3日に「NRI AFT」を出していますが経理財務・AI検証への言及はなく、ベイカレントは7月から10月のニュースリリースに経理財務×AIの発信がありません。アクセンチュアはFinance & Riskのサービスページを確認しましたが、データ収集時間57%削減・レポーティング75%高速化といった効率の数字と、ERP・プラットフォーム各社とのパートナーシップが並ぶだけで、AI出力の検証や監査法人との役割分担の記述はありません。なお同社の日本のニュースルームは一覧ページが取得できず、この期間の網羅確認はできていません。
【その他】
日本IBMは6月23日に「AIエージェント・オペレーション・ハブ」を北九州に新設し、「50%以上の業務自動化」を視野に入れるとしていますが、対象は間接業務全般で経理の特定はなく、AI出力の検証・内部統制の記述も含まれていません。NTTデータは5月27日に「生成AIで経理伝票起票を自動化、東急で年間約5,000時間の作業削減」を出しており、典型的な自動化です。SCSKと電通総研は、7月から10月に経理財務領域のAIエージェントの新規発表がありませんでした。BCGは「The CFO’s AI Agenda」(4月30日公開・5月11日更新、共著者に東京オフィスの所属者)で、data lineage、explainability、escalation protocols、audit trailsという4つの要件と「AI proposes, human disposes」という基本姿勢を挙げています。言葉としては近いのですが、原則の列挙であって「何を見れば監査に耐えるか」の項目ではありません。マッキンゼー日本とベイン日本については、日本法人発のAI×CFOの発信を確認できませんでした。
<あなたが明日からできること>
【バックオフィスはこう変わる】
AIを入れる話と、AIの出力を検証する話は、別の仕事です。今週の二つの調査がそれをはっきりさせました。導入への関心は95%、実施中は7%。出力をレビューしている企業は8%、入出力を記録している企業は11%。つまり多くの会社が、検証の仕組みを持たないままAIを業務に入れています。これは近いうちに、監査人から「その処理、何を確かめたことになるのですか」と聞かれる形で跳ね返ってきます。
【バックオフィスが押さえるべきポイント】
大手の旗は、いまのところ監査法人側が持っています。ASTRAM™、KPMG AiX、EYのC認証支援、PwCの統制一体型運用。どれも監査法人またはアシュアランス法人の発信で、コンサル法人側は持っていません。そして総合コンサル各社が売っているのは、AIを入れること、ERPを入れること、BPOで回すことであって、出てきた数字が監査に耐えるかどうかではありません。外注先を選ぶときは、その会社が「入れる側」なのか「確かめる側」なのかを最初に切り分けてください。この二つを同時に売れる会社は、独立性の制約もあって、構造的にほとんど存在しません。
【今日からの5分トライ】
自社でAIを使っている業務を一つ選んで、紙でもメモアプリでもいいので、三行だけ書いてください。一行目、AIに何をさせているか。二行目、その出力を誰が、何を基準に確認しているか。三行目、その確認の記録はどこに残っているか。三行目が空白なら、その業務がデロイト調査の「92%」の側にいます。5分で、自社の立ち位置が分かります。
【中長期でこうついていく道筋】
この8%という数字は、しばらく使えます。社内でAI活用の予算を取るときも、取引先に説明するときも、「関心は95%だが実施は7%」「出力をレビューしているのは8%」という第三者の数字があると、話が早い。ただし数字が示しているのは「していない」という事実であって、「どうすべきか」ではありません。そこを埋めるのは各社の設計です。また、デロイトがASTRAM™を「将来的には自らの財務諸表監査のAI監査メソドロジーにも応用する」と書いている以上、1、2年のうちに監査法人側から方法論が降りてきます。降りてきてから慌てるより、いま自社の月次で一つだけ、AIの出力に対する確認の観点と記録の置き場所を決めておくほうが早い。一つできれば、残りは横展開できます。
<出典>
出典:[デロイト トーマツ Japan Fraud Survey 2026-2028/Digital PR Platform(2026年9月29日)]
https://digitalpr.jp/r/142602
出典:[デロイト トーマツ AIガバナンス(ASTRAM™)ページ(2026年10月4日確認)]
https://www.deloitte.com/jp/ja/products/ai-governance.html
出典:[デロイト トーマツ 内部監査・J-SOX AIエージェント効果検証(2026年5月28日)]
https://www.deloitte.com/jp/ja/about/press-room/nr20260528.html
出典:[KPMG Japan Fraud Survey 2026(2026年9月28日)]
https://kpmg.com/jp/ja/media/press-releases/2026/09/fra-fraud-survey.html
出典:[KPMG AiX 新設(2026年8月19日)]
https://kpmg.com/jp/ja/media/press-releases/2026/08/kpmg-aix.html
出典:[KPMG CFO機能変革・経理DX(2026年10月4日確認)]
https://kpmg.com/jp/ja/services/advisory/risk-consulting/financial-process-advisory/cfo-transformation-dx.html
出典:[EY新日本 F&C部門新設(2026年9月18日)]
https://www.ey.com/ja_jp/newsroom/2026/09/ey-japan-news-release-2026-09-18-02
出典:[EY新日本 JDLA C認証取得支援(2026年9月11日)]
https://www.ey.com/ja_jp/newsroom/2026/09/ey-japan-news-release-2026-09-11
出典:[PwC 財務・経理領域における生成AI活用支援(2026年10月4日確認)]
https://www.pwc.com/jp/ja/services/assurance/financial-reporting/utilization-of-generative-ai.html
出典:[PwC シンギュラリティ時代のAIリスクガバナンスアーキテクチャ(2026年5月21日)]
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/2026/risk-governance-architecture.html
出典:[アビーム×Notion(2026年9月17日)]
https://www.abeam.com/jp/ja/news/2026/0917/
出典:[アクセンチュア Finance & Risk(2026年10月4日確認)]
https://www.accenture.com/jp-ja/services/finance-risk
出典:[NRI AFT(2026年8月3日)]
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20260803_1.html
出典:[日本IBM AIエージェント・オペレーション・ハブ/PR TIMES(2026年6月23日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000722.000046783.html
出典:[NTTデータ 生成AIで経理伝票起票を自動化(2026年5月27日)]
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2026/052700/
出典:[BCG The CFO’s AI Agenda(2026年4月30日公開・5月11日更新)]
https://www.bcg.com/publications/2026/the-cfos-ai-agenda-from-automation-to-advantage
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