「AIを全社に入れた」というニュースは、この半年でずいぶん増えました。数万人規模の大企業が、クラウド事業者の基盤の上に専用の環境を組んで全社員に配る。そうした発表が続くと、全社導入は大企業が大きな予算をかけてやるもの、という印象になりがちです。

ですが、もう少し身近な形の全社導入もあります。東証プライム上場のサイボウズは、AnthropicのAI「Claude」を、法人向けのTeamプランで全社に展開しています。しかも、その配り方を自社の採用サイトで公開しています。

採用サイトの「サイボウズ社内での生成AI利用状況」には、「Claude(Team)」と書かれ、「2026年5月、全社員の7割以上がClaudeの利用を申請し、申請者数は今も増加中です」とあります。社員の技術ブログ(2026年2月20日)にも、「今年からは Claude の Team Plan が全社展開されるようにもなり」という一文があります。どちらも会社自身が出している情報です。

今回は、この事例のどこが手本になるのかを、会計・監査の目線で整理してみます。

 

1.「クラウド版の法人プラン」を、そのまま使っている

Claudeを会社で使う経路は、大きく2つに分かれます。

・A Anthropicが運用するクラウド版を、法人向けの契約(Team/Enterprise)で使う
・B AWSやGoogle Cloudなど、クラウド事業者の基盤を経由して使う

Bは、データの置き場所や認証を自社のクラウド環境で細かく決めたい大企業に向いています。そのぶん設計と運用に手間がかかります。

サイボウズが選んでいるのはAです。Anthropicが運用するクラウド版を、法人向けのTeamプランで契約して使う形です。特別な基盤を組まなくても、法人向けの契約であれば、Anthropicの法人向け規約が適用されます。この規約には、顧客のデータでモデルを学習しない旨が明記されています。

つまり「大がかりな仕組みを作らなくても、法人向けの契約を選ぶだけで、守りの土台は一段上がる」ということです。全社導入の入口として、これは中堅・中小企業にもそのまま参考になります。

 

2.一律配布ではなく、申請制にしている

もう一つの特徴は、全員に一斉に配っていないことです。社員が申請し、そのうえで使う形になっています。結果として、全社員の7割以上が申請している、という状態です。

さらに、社員は誰でも「AI相談窓口」に相談でき、問題がないかをセキュリティ・法務・情シスでつくる審査組織が検討する、と書かれています。

これを会計・監査の言葉に置き換えると、次のようになります。

・申請制  =承認の記録が残る。誰が使っているかの名簿を会社が持てる
・三部門の審査  =一つの部署だけで判断しない。いわゆる職務の分担
・相談窓口  =例外や迷いを、黙って処理させずに表に出す経路

内部統制の基本である「承認」「職務の分担」「記録」が、AIの配り方にもそのまま入っています。全社員に一斉に配ることが、全社導入の唯一の形とは言い切れません。手を挙げた人から使い、その名簿と審査の記録を会社が持つ。このやり方のほうが、後から説明しやすい可能性があります。

 

3.使い方を、社外に向けて書いている

三つ目は、これを採用サイトという社外向けの場所に書いていることです。

サイボウズの記載では、Claudeは長文の分析やコーディング、デスクトップ版から外部のツールにつなぐ使い方に使われており、ほかにも多くのAIツールと並べて使い分けていることが分かります。何を、どういう手続きで、どの範囲で使っているのか。これを外に向けて書けるということは、社内でそれが整理されているということでもあります。

監査の現場では、「説明できること」がそのまま統制の強さの目安になります。AIの使い方を社外に向けて書けるかどうかは、自社の整備状況を測る分かりやすいものさしになるかもしれません。

 

4.では、自社でどう真似るか

大きな予算がなくても、次の4つは今日から検討できます。

1.契約を法人向けにする
個人のプランを各自に持たせるのではなく、Team/Enterpriseなどの法人向けの契約にします。規約の当事者が会社になり、学習に使わない旨が契約で担保されます。

2.申請制にして、名簿を会社が持つ
全員一斉でなくてかまいません。申請の記録が、そのまま「誰が使っているか」の名簿になります。

3.相談先と審査の担当を決める
情シスだけで抱えず、法務や管理部門も入れて判断する形にします。小さな会社なら、担当者を2人決めるだけでも分担になります。

4.使い方を1枚に書く
何に使ってよいか、何を入れてはいけないかを、社外に見せられる言葉で1枚にまとめます。

 

おわりに

全社員に一斉に配ることが、全社導入の唯一の形とは言い切れません。サイボウズの例は、法人向けの契約を選び、申請と審査で名簿と記録を持つという、地味ですが説明のしやすい形を示しています。

明日できる確認を一つだけ挙げます。自社でAIを使っている人の名簿が、いま会社の手元にあるかどうかです。なければ、そこが最初の一歩になります。

出典:サイボウズ 採用サイト「サイボウズ社内での生成AI利用状況」https://cybozu.co.jp/recruit/workplace/ai-tools.html /サイボウズ Inside Out「チーム専用の Claude Code Plugin マーケットプレイスを作った話」(2026年2月20日)https://blog.cybozu.io/entry/2026/02/20/150000

ISAO国際公認会計士事務所 加藤 勲
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