<直近2週間の動き>
【PwC Japan有限責任監査法人】10月23日、生成AIと専門家が協働する「Assessment Workspace」を使った評価支援を始めると発表しました。監査法人が主語に立った発信は3週ぶりです。提供モデルは3本で、1本目は「AIによる一次評価と専門家による確認・判断を組み合わせ、効率化と一貫性を高めながら、高品質な評価を提供します」、2本目は企業が自社内で継続的に評価できる仕組みの構築支援、3本目は「評価業務の一部または全部を継続的に担い」というマネージドサービスです。対象はシステム・セキュリティ評価、内部統制報告制度に関する評価、取適法対応の評価で、段階的に拡大するとしています。専門家個人に属人化していた評価ノウハウを可視化・再利用可能にすることが狙いだと説明しています。
ただし、何をどこまで検証すれば足りるのか、手続、サンプル数、合否基準、証拠の水準は書かれていません。「証跡」「判定基準」という語も出てきません。評価の枠と可視化の方向までで止まっています。
【電通総研】10月27日、経費精算「Ci*X Expense」と汎用ワークフロー「Ci*X Workflow」の最新版を提供開始しました。生成AIチャットが「申請時の入力チェックや規程に関する利用者からの問合せにAIが対応します」。そして2027年春に「生成AIによる自動承認」を搭載する予定だと公表しました。規程と過去事例を学習し、申請不備の自動検知から一次自動承認までを自律実行する構想です。
注目すべきは書かれていないことです。このリリースに「証跡」「ログ」「検証」「監査対応」という語が1つもありません。一次承認をAIに渡す構想を半年後に置きながら、何が記録に残るのかを書いていない。この2週間に出た国内の大手コンサル・SIの発信のなかで、最も危ういものです。
【ベリサーブ】10月23日、AIテスト設計エージェント「TESTRA」の正式提供を開始しました。会計の話ではありません。ソフトウェアのテスト設計です。それでもここに挙げるのは、判定軸にいちばん近いからです。公式の表記はこうです。「各工程で人がAIの生成内容を確認・承認した上で次の工程に進む仕組みにより、テスト設計の効率化と品質確保の両立を支援します」「「何を、なぜテストするのか」を人が確認・説明できるようにし」「生成過程で作成される中間成果物や判断根拠を可視化することで」「レビューやリリース判断、監査対応に必要な説明性を高めます」。
工程ごとの承認ゲート、中間成果物と判断根拠の可視化、そして「何を・なぜ検証するのか」の説明。この3つがそろっています。会計の世界では、この3点セットを製品として出している会社をまだ見ていません。
【NTTデータ経営研究所】10月29日、AIコンサルティングサービス「SPARK」を立ち上げ、第1弾「AI Foresight & Intelligence」を提供開始しました。人の関与については「専門家や現地への調査によってAIの分析を補強し、得られた情報を採用・修正・却下するという重要な判断は人間が行います」と明記しています。判断の主体は書きましたが、どう確かめて採否を決めるのかの手続と基準は書かれていません。
【EY新日本有限責任監査法人・EYストラテジー・アンド・コンサルティング】10月27日、国内主要企業87社を対象としたサステナビリティ経営の実態調査を公表しました(181社へ依頼、回答率48%、調査期間は6月5日から9月4日)。サステナビリティ業務でのAI利用は75%で、用途は規制・他社開示のリサーチと開示文書のドラフト作成が中心です。AI利用は人のレビューと専門家による検証との組み合わせを推奨する、としています。監査法人とコンサル法人の共同発信です。
そのひとつ前、10月16日にはEYストラテジー・アンド・コンサルティングが「AI活用プロジェクト評価・サービス」を出しており、企画・PoC・開発導入・運用の4フェーズとビジネス・テクノロジー・プロセスの3観点を掛け合わせた評価の枠を示していました。評価項目の粒度まで降りた点で、この2週間のコンサル側では最も具体的です。ただし、どの証拠をどう採れば検証したと言えるかは書かれていません。
【KPMGジャパン】10月29日、CFOサーベイ2026/27を公表しました(上場企業のCFOまたは財務経理部門長、有効回答568社、調査期間は7月1日から9月4日)。「生成AI・AIエージェントへの投資意欲は極めて高く、投資方針として「縮小・見直し」を選択した企業はみられなかった」とする一方、「CFOの意思決定の質向上まで実感している企業は20%にとどまる」としています。課題は「人材、システム、ガバナンス、コストといった実装に関わる要素に集中している」。発信はKPMGジャパン名義で、あずさ監査法人名義ではありません。
そのひとつ前、10月16日にはKPMGジャパンが、改正後の日本の金融商品会計基準(予想信用損失モデル、ECL)への移行支援に生成AIを組み込むと明言していました。会計基準対応そのものにAIを接続した、この2週間で唯一の発表です。ただし「移行準備支援に生成AIを活用した取り組みを組み入れ」とあるだけで、どこにどう使い、その出力をどう検証するかは書かれていません。支援メニューは5つに分解されていますが、そのうち4つが会計面・モデル構築・システム導入・簡素化された測定方法への対応で、AIについては5つ目の「生成AIの活用」という項目が立つだけです。どこにどう使い、その出力をどう検証するかは書かれていません。
【その他】アビームコンサルティングは10月29日、住友生命の「ウェルビーイング共創価値」について、インパクト会計などの手法も参照しながら算出ロジックの構築と対外開示を支援したと公表しました。健康増進プログラムの会員約160万名を対象に社会的価値を年間約4,100億円と推計したのは住友生命で、アビームはその算定を支援した側です(第三者検証・保証についての記述はありません)。KPMGコンサルティングは10月27日にIPビジネス推進支援サービス、10月28日にResilireとの協業を公表しています(後者にAIの語はありません)。フォーティエンスコンサルティングは10月26日にAI-readyデータ構築支援サービスを提供開始しました。合同会社デロイト トーマツは10月27日、日本銀行のCBDCパイロット実験の委託先に選定されています(AIの記述なし)。
そして、この2週間でデロイト トーマツ(監査法人)とあずさ監査法人の単独名義によるAI関連の発信はゼロでした。3週続けてゼロです。
<あなたが明日からできること>
【バックオフィスはこう変わる】
「AIが一次処理をして、人が確認・判断する」という説明は、もう3法人が同じことを言う水準になりました。これを聞いても何も分かりません。これからのベンダー選定と委託先選定では、この一文の有無ではなく、その先に何が書いてあるかを見ることになります。
【バックオフィスが押さえるべきポイント】
見るべきは3つです。工程のどこに人の確認を置くか。その確認で何を見るか。確認の中間成果物と判断の根拠を残すか。ソフトウェアテストの世界では、この3つを製品仕様として書いた会社が正式提供まで来ています。会計の世界では、監査法人も含めてまだ誰も書いていません。提案を受けたら、この3つを紙で出してもらってください。
【今日からの5分トライ】
自社の経費精算か請求書処理の承認フローを1つ選び、「承認者はそこで何を見ているか」を箇条書きで3つ書き出してください。5分で終わります。3つ書けなければ、その承認は形式です。書けたなら、そのうちどれが機械で代替でき、どれが人に残るかの議論が始められます。
【中長期でこうついていく道筋】
2027年春には、申請不備の検知から一次承認までをAIが自律的に行う製品が国内に出てきます。半年先です。そのときに困らないために、いまのうちに「承認の記録として何が残っていればよいか」を社内で決めておいてください。承認者の名前、承認日時、何を見て承認したか、AIの判定を覆した場合はその理由。この4つが残る設計になっていれば、AIが入っても説明できます。残らない設計のまま自動承認だけ入れると、後から追えません。
<出典>
出典:[PwC Japan有限責任監査法人(2026年10月23日)]
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/2026/assessment-workspace.html
出典:[電通総研(2026年10月27日)]
https://www.dentsusoken.com/news/release/2026/1027.html
出典:[ベリサーブ(2026年10月23日)]
https://www.veriserve.co.jp/news/2026/news-20261023.html
出典:[NTTデータ経営研究所(2026年10月29日)]
https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/261029/
出典:[EY Japan(2026年10月27日)]
https://www.ey.com/ja_jp/newsroom/2026/10/ey-japan-news-release-2026-10-27
出典:[KPMGジャパン CFOサーベイ2026/27(2026年10月29日)]
https://kpmg.com/jp/ja/media/press-releases/2026/10/cfo-survey-2026.html
出典:[アビームコンサルティング(2026年10月29日)]
https://www.abeam.com/jp/ja/news/2026/1029/
出典:[KPMGコンサルティング(2026年10月27日)]
https://kpmg.com/jp/ja/media/press-releases/2026/10/kc-ipbusiness-development.html
出典:[フォーティエンスコンサルティング(2026年10月26日)]
https://www.nttdata.com/global/ja/news/group/2026/102600
出典:[合同会社デロイト トーマツ(2026年10月27日)]
https://www.deloitte.com/jp/ja/about/press-room/nr20261027.html
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