<直近2週間の動き>
【仰星監査法人・Sapeet】10月21日、監査支援AIの第二弾「査閲AI」を共同開発したと公表しました(発表主体はSapeet)。監査調書の査閲そのものをAIが一次チェックするもので、2026年9月から実際の監査調書を使った試行利用が始まっています。表記は「AIの一次チェックにより査閲者のチェック負荷を軽減し」「AIが最終的な査閲判断を行うのではなく、提示された内容を作成者・査閲者が確認したうえで最終判断を行う設計としています」。第一弾は2025年の「分析AI」です。
これが重いのは、日本の監査法人のAI化が「海外ネットワークから降りてくる」形ではなく、「国内ベンダーとの個別の共同開発」で立ち上がった最初の明確な事例だからです。仰星監査法人は現在Nexia Internationalの加盟事務所で、2027年7月1日に三優監査法人と合併して「監査法人BDO Japan」となる予定です。合併前から自前でAIのラインを確保したことになります。ただし、判定の中身(何をどう見れば足りるか)は書かれていません。10月30日時点で続報は出ていません。
【Autech】10月30日、「AI株価算定ツール」の無料枠の見直しとサイト刷新を事前告知しました。11月12日から、フリープランの簡易版の対象が年0〜20社から年0〜2社に絞られ、スタータープランの下限が年21社以上から年3社以上に広がります。金額は9月28日の提供開始時から据え置きで、フリープラン(年0〜2社、簡易版)が月額0円、スタータープラン(年3〜100社)が月額 税抜7,500円(税込8,250円)、スタンダードプラン(年101〜200社)が月額 税抜13,500円(税込14,850円)、201社以上は個別見積、詳細版は申込不要の従量課金で1社あたり 税抜3,000円(税込3,300円)です。税別と税込の両方を併記しています。扱うのは非上場株式評価(類似業種比準方式・純資産価額方式)の概算と顧問先向け説明資料の作成で、残余利益方式には対応していません。
ここで見るべきは料金より設計です。リリースは「算定は評価通達に沿ったプログラムロジックで行い、生成AIはレポート説明文の原案補助のみに使用します。」と書き、そのうえで「内容の最終確認は税理士が行います。」「個別の状況に応じた税理士による確認を前提としています。」と続けます。どこを機械に任せ、どこを人に残したかを製品仕様として書いた、この2週間で唯一の例です。なお前者の一文は9月28日の提供開始時からあり、今回新しく出たものではありません。
【ゴムマリ】10月24日から30日に7本のリリースを打ち、そのうち5本が「◯◯の料金の公表を調査」という新シリーズでした。ほぼ1日1本のペースは前の週から変わっていませんが、中身が変わりました。AI開発(63社中、公式サイトに価格を載せているのは2社)、市場調査会社(47社中12社)、データ入力代行(52社中27社)、業務自動化の外注先(30社中8社)、営業リスト作成代行(26社中14社)。自社サービスの提供開始を告げる発信から、他社の料金の不透明さを突く発信へ、1週間で軸足を移しました。監査ログの記述は今週のリリースにもありません。決算・開示には入ってきていません。
【LayerX】10月28日、12月9日に「AI経理の日 2026」を開催すると告知しました。基調講演はEY新日本有限責任監査法人の鴇田直樹氏(クライアントサービス本部マーケッツ企画部/第2事業部 パートナー)と津髙大氏(第2事業部 シニアマネージャー)で、新リース会計基準の変更点と経理でのAI活用を扱います。セッション2は「AIが支援する領域と、人が判断・確認・承認すべきポイント」です。告知文は「導入効果を得るには、人とAIの役割分担や業務オペレーションの設計が重要です」としています。AI-BPO側のベンダーが、大手監査法人の人を会計基準の説明役として招いた形です。自分たちが持っていない「会計基準の解釈」を、外から借りに行った動きと読めます。
【エフアンドエム】10月29日、「第2回 AI-1グランプリ」の結果を公表しました。「AI研究会の会員事務所が、実際に業務で活用しているAIの事例を競うコンテストです」。会員は1,235事務所で、前に記録した1,027事務所から増えています。3部門に84件の応募があり、最優秀賞はつばさ税理士法人でした。優秀賞の事例紹介のなかに、AIが通帳・契約書・返済予定表にマーカーを引き、貸借対照表の全科目の期末残高の根拠を1冊のPDFに綴じてAIが検品し、1件あたり半日から1日かかっていた手作業が「承認と照会への回答」のみになった、という記述があります。
【TOKIUM】10月16日に東証グロースへの上場が承認され、上場日は11月25日(証券コード664A、想定時価総額約168.4億円)です。会社の自称は「経理AIエージェント」。経費精算から始まった会社が、AI経理の会社として上場します。上場後は決算・開示の領域での発信が増えます。
【AIデータ】10月27日、「AI Tax Loop on IDX」のデータ連携を拡充しました。既存の会計・税務・顧問先管理システムのデータをAPIまたはCSVで取り込み、「生成された成果物と実行結果をIDXに保存」するとしています。ただし「監査ログ」「証跡」の語はなく、人の最終判断についての記述もありません。注記に「APIまたはCSVによるデータ連携には別途開発が必要になります」とあります。
【直接の競合2社】管理のプロは、お知らせに新しい発信がありません(最新は6月17日のウェビナーシリーズの告知)。ブログは10月23日以降に5本出ており、すべて「AI×BPOラジオ」というカテゴリです。このうち会計に関係するのは10月29日の「経費精算の会社が「経理AIエージェント」として上場する理由」と、10月24日の「会計ソフトの会社が「経理の仕事を終わらせる」と言い始めた|マネーフォワード決算を読む」の2本でした。SaaSベンダーの決算と上場を論評する作り方は変わらず、決算・開示・監査対応の領域には入ってきていません。
白井敬祐公認会計士事務所は、11月15日の「CFO LEADERS SUMMIT 2026『AI時代の経理財務組織はどう変わるのか』」への登壇が掲載されています。会計リサーチAI「AICPA KUROI」に、直近2週間の更新は確認できませんでした。
【その他】準大手・中堅中小の監査法人は、太陽、三優、東陽、アヴァンティア、史彩のいずれも、この1週間はAI関連の公表がありませんでした(いずれも一次情報のページで確認済み)。ミロク情報サービスは10月27日にITトレンドのランキング1位を公表(受賞告知であり新機能ではありません)、辻・本郷ITコンサルティングは10月27日に国交省の空き家対策モデル事業への実証協力を公表しています。AI×人のBPOでは、HERITAGEの「経理代行AIエージェント」(月額30,000円から、税別・税込の明記なし)、AIセキュリティソリューションズの「AI BPOバックオフィス代行」(従量課金、金額の公表なし)、PKSHA Technologyとトライアンフの人事労務AI BPOを、今回あらたに確認しました。いずれも「AIが処理し、人が確認する」という同じ言い方を使っています。
<あなたが明日からできること>
【バックオフィスはこう変わる】
「AIが一次処理をして、人が最終判断します」という説明は、もう差別化になりません。準大手の監査法人も、月額7,500円の税理士向けツールも、月額3万円の経理代行も、同じことを言っています。この2週間で、本体として数えられる新しい使用者が1つ、周辺を含めて2つ増えました。ほかに今回あらたに確認した経理代行3社も、同じ趣旨の言い方をしています。委託先を選ぶとき、この一文があるかどうかで判断してはいけません。
【バックオフィスが押さえるべきポイント】
代わりに見るべきは、どこを機械に任せ、どこを人に残したかを具体的に書いているかです。この2週間で、それを製品仕様として書いたのは1社だけでした。「算定そのものは評価通達に沿ったプログラムが行い、生成AIは説明文の原案を補助するだけ」。ここまで書いてあれば、何が機械の責任で何が人の責任かが分かります。書いていない製品は、問題が起きたときに切り分けられません。
【今日からの5分トライ】
いま使っている、あるいは検討している経理系のAIツールの料金ページを開いて、税別か税込かを確認してください。5分で終わります。この業界は税込だけを書く会社と税別だけを書く会社が混在していて、そのまま並べると比較を誤ります。社内の比較表を作るなら、最初に税別でそろえてください。
【中長期でこうついていく道筋】
外部に委託するとき、AIを使うこと自体はもう止められません。決めておくべきは「委託先のAIが出した結果を、自社の誰が、何を見て受け入れるか」です。一次承認まで外に出す設計の経費精算BPOも登場しています。自社の責任が残る範囲を契約書と業務フローの両方で線引きし、その線を引いた理由を1行で書いておいてください。来年、監査で聞かれたときに答えられるのはその1行です。
<出典>
出典:[Sapeet/PR TIMES(2026年10月21日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000128.000026498.html
出典:[Autech/PR TIMES(2026年10月30日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000190917.html
出典:[ゴムマリ/PR TIMES(2026年10月26日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000185093.html
出典:[ゴムマリ/PR TIMES(2026年10月30日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000048.000185093.html
出典:[LayerX/PR TIMES(2026年10月28日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000660.000036528.html
出典:[エフアンドエム/PR TIMES(2026年10月29日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000161.000029825.html
出典:[TOKIUM 上場承認(2026年10月16日)]
出典:[AIデータ/PR TIMES(2026年10月27日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000833.000040956.html
出典:[管理のプロ ブログ]
https://www.kanri-pro.com/blog
出典:[白井敬祐公認会計士事務所]
https://kuroi-shirai.com/
出典:[ミロク情報サービス/PR TIMES(2026年10月27日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000556.000018493.html
出典:[辻・本郷ITコンサルティング/PR TIMES(2026年10月27日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000141.000086807.html
出典:[HERITAGE 経理代行AIエージェント]
https://startupplus.jp/accountingai/
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