<直近2週間の動き>

【Trullion】10月23日、被監査会社が監査人に投げるべき質問集を公開しました。この2週間で最も実務的な発信です。AIについての質問は4つあり、原文の順に並べるとこうです。1つ目「私たちの監査のどこでAIや自動化を使っていて、何がいまも人の手によるのか」。2つ目「私たちのデータはどこに保存され、誰がアクセスでき、モデルの学習に使われるのか」。3つ目「AIが支援した結論を、原資料と、それが依拠する基準までたどれるか」。4つ目「あなたの事務所では誰がAIの作ったものをレビューし、誰がサインオフするのか」。
解説が付く位置が重要です。「これが、監査可能なAIかどうかを実務で試す問いである。出力が証拠と指針に結びつけられないなら、あなたのチームも検査官も検証できない」という一文は、4つ目のサインオフではなく、3つ目のトレーサビリティに付いています。4つ目に付いた解説は1文だけで、「強い答えは、査閲者を名指しし、監査意見は依然として監査責任者のものであることを確認する」。これまでは各ベンダーが自社について書いていました。今度は買い手に聞かせる形です。
10月29日には監査証跡の記事を出しました。「従来の証跡は、誰が何をいつしたかに答える。AI時代の証跡はさらに、AIが何を読み、どの指針を適用し、何を結論づけ、誰がそれを受け入れたかに答える」。そして「AIは起案でき、人が署名する」「出典のないチャットの回答は監査証拠になりえない」。検査のための質問として「その証跡は、AIが生成した作業、人が入力した作業、人が編集した作業を区別しているか」まで出しています。証跡の中身をここまで分解した発信は、この2週間でここだけです。
ほかに10月26日と10月28日に競合比較記事を2本(リース会計ソフト8社、監査コンプライアンスソフト9社)、10月27日にASC 842の転貸会計の実務解説を出しています。比較記事で分かったことが1つあります。17社すべて価格が非公開で、具体的な金額は1件もありませんでした。そのひとつ前、10月19日と10月22日には内部統制と自動化の切り分けを監査用語で書いており、「サンプルではなく母集団全体を、例外は人に回す」という記述を出していました。

 

 

【Basis】10月23日にPinion、10月26日にAndersという、いずれも米国Top 100の会計事務所の導入事例を公開しました。Pinionの事例の表記は「Basisが初回パスを行い、作業を準備し、仕訳を元帳に書き戻し、例外を浮かび上がらせる。会計士は出力を点検し、例外を解消し、最終判断を下す」。Andersの事例では「Basisが複雑な収益仕訳、給与の見越計上、その他の込み入った作業を行う」とあります。収益認識と期間帰属に名指しで踏み込み、しかも元帳への書き戻しまで実行していることを明記しました。
ところが、この2事例のどちらにも監査証跡の記述がありません。以前の導入事例には監査証跡の語がありました。実行の範囲が広がるのに、記録についての記述が薄くなっています。

 

 

【Fieldguide】10月26日、自社の技術論を公開しました。内容が重いので正確に引きます。「エージェントと監査人の意見が食い違った事例を調べたところ、約3分の2は推論の誤りではなく、事務所固有の方法論か、エージェントが見たことのない証憑に起因していた」。つまりAIの賢さではなく、事務所が持っている方法論が答えを決めている、ということです。
その方法論を機械に渡す作業のコストも書いています。「監査では、正解とは、経験ある監査人が、事務所の方法論を、しばしば不完全な証憑に適用してサインオフした結論である」「使える事例になりうる割合は、より業種特化した業務に移るにつれて約30%から約8%へ落ちた」「1件のラベル付けに専門家の時間が約10時間かかった」。さらに「エージェントと監査人の不一致はすべて、どちらを正とする前に専門家のレビューにかける。評価にも、監査人が証拠に向けるのと同じ職業的懐疑が必要である」。証跡については「修正はレビュアーに帰属し、再実行で上書きされない」と実装レベルで書いています。
10月23日には、AICPAとAIUCの共同保証認証を受けて「これらの報告書に署名することになる当の事務所が、いま自分たちの業務にAIを展開している」「自分たちのクライアント証憑に触れるAIについて、SOC 2とAIUC-1は何と言うか」と問う論説を出しました。

 

 

【Oracle NetSuite】10月26日、SuiteWorld 2026で「Autonomous Suite」を発表し、「Autonomous Close」ワークスペースを示しました。「人とエージェントが会計期間末を待たずに継続的に会計上の問題を識別・解消できるようにして、ゼロデイ・クローズに近づける」。ERP本体が決算の自律化を掲げたことで、この領域の地図が変わりました。ただし、このリリースに人のレビューを約束する文言はなく、監査証跡の語もありません。担保として書かれているのは「アクセスと実行は既存のロールと権限で統制される」「設定された権限と承認要件の範囲内で」「エージェントのアクセスと実行権限を集中管理し、活動を監視する」「System Notesがレコード変更の追跡可能性を支える」といった、権限・承認要件・監視・変更追跡の語です。監査証跡(audit trail)という語は1件もなく、アサーション・重要性・閾値・母集団・サンプルも0件です。

 

 

【BlackLine】10月29日、フランスのソブリンクラウドS3NS(Thalesが支配しGoogle Cloudと組む合弁会社)と提携し、「信頼されたクラウド基盤上でホストされる新オファリング」をフランスで提供すると公表しました。Thalesが最初の顧客です。データの所在地と主権の話で、会計判断には触れていません。

 

 

【Caseware】10月28日、CEOが「AIファースト」の社内変革について書きました。「会計・保証の専門家が、自らの判断を中心に置いたまま、より効率的に働けるようにする」「エンジニアがエージェントの作業を指示・評価し、品質と本番のチェックポイントがそれを支える」。社内の進め方の話で、会計論点には入っていません。

 

 

【その他】PunchcardとMindBridgeの発信が同時に止まっています。Punchcardのchangelogは10月19日が最後で11日間、MindBridgeのブログは10月15日が最後で15日間、新しい投稿がありません。閾値とアサーションにこの領域で最も踏み込んできた2社が、そろって沈黙しています。DataSnipperは10月16日のリリースノートで「エージェントの計画は各ステージ後に一時停止し、Excelで結果を確認して修正できるようになりました」と書き、10月30日には外部監査向け8本を含む20本の新しい組み込みエージェントを追加しました。そのDataSnipperは10月16日に「エージェントの計画は各ステージ後に一時停止し、Excelで結果を確認して修正できるようになりました」と書いており、人が見る回数を増やす方向の変更でした。Y Combinatorの2026年秋バッチには、米英豪の研究開発税額控除から始める税務事務所ClaimKitが入っています。
なお、この2週間に調べたすべての一次情報で、日本・日本語・日本公認会計士協会・日本基準への言及は1件もありませんでした。

 

 

<あなたが明日からできること>

【バックオフィスはこう変わる】
これまで「AIをどう使っているか」は、監査を受ける側が気にすることではありませんでした。それが変わります。監査人に対して「どこでAIを使い、何を人がやり、誰がサインオフするのか」を聞く、という作法が海外では提案され始めました。逆に言えば、経理の側も自分たちのAI利用について同じことを聞かれる側になります。

 

 

【バックオフィスが押さえるべきポイント】
Fieldguideが出した数字は、AIの導入計画を立てるときの現実的な目安になります。業務が専門的になるほど、AIに渡せる「正解の事例」は3割から1割以下に落ち、1件作るのに専門家の時間が10時間かかる。つまりAIの性能ではなく、自社が持っている手順書と判断基準の質が、導入の成否を決めます。手順が言葉になっていない業務は、AIに渡しても止まります。

 

 

【今日からの5分トライ】
自社の月次決算で「AIやツールが作ったものを、人が直した」ケースを1つ思い出し、その修正の理由がどこかに記録されているかを確認してください。5分で終わります。記録が残っていなければ、それがいま自社に足りていない証跡です。

 

 

【中長期でこうついていく道筋】
AIが仕訳を元帳に書き戻す製品はもう動いています。自社でそこまで進めるかどうかにかかわらず、先に決めておくべきことが1つあります。「AIが作ったもの」「人が入力したもの」「人が直したもの」を、システム上で区別できるようにしておくことです。この3つが混ざったまま蓄積されると、後から誰も分解できません。いま使っている会計システムで、この3つが区別できるか。できないなら、運用で区別する方法を決めてください。

 

 

<出典>
出典:[Trullion(2026年10月23日)]

Questions to Ask Your Auditor: A Practical List for Every Phase of the Audit


出典:[Trullion(2026年10月29日)]

The Purpose of Audit Trails and the Age of AI


出典:[Trullion(2026年10月28日)]

9 Best Audit Compliance Software Platforms for 2026


出典:[Trullion(2026年10月26日)]

8 Best Enterprise Lease Accounting Software Platforms for 2026


出典:[Basis(2026年10月23日)]
https://www.getbasis.ai/customer-stories/pinion
出典:[Basis(2026年10月26日)]
https://www.getbasis.ai/customer-stories/anders
出典:[Fieldguide(2026年10月26日)]
https://www.fieldguide.com/blog/eval-is-steering-wheel-firm-judgment-is-driver
出典:[Fieldguide(2026年10月23日)]
https://www.fieldguide.com/blog/soc2-aiuc
出典:[Oracle NetSuite(2026年10月26日)]
https://www.netsuite.com/portal/company/newsroom/netsuite-advances-vision-for-an-autonomous-suite.shtml
出典:[BlackLine(2026年10月29日)]
https://investors.blackline.com/news-releases/news-release-details/blackline-expands-europes-trusted-cloud-market-s3ns
出典:[Caseware(2026年10月28日)]
https://www.caseware.com/resources/blog/ceo-perspectives-being-ai-first-what-were-learning-at-caseware
出典:[Punchcard changelog(最新2026年10月19日)]
https://changelog.punchcard.com
出典:[MindBridge ブログ(最新2026年10月15日)]

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