<直近1週間の動き>
【仰星監査法人・三優監査法人】7月27日、合併の基本合意を締結しました。2027年7月1日に「監査法人BDO Japan」を創設し、統合後の規模は業務収入約110億円、人員822人、被監査上場会社192社。注目すべきは合併の目的です。原文は「監査品質に対する社会的要請の高度化や規制の厳格化、人材確保競争の激化、AI・ICTの進展、被監査会社の事業活動の高度化・国際化といった環境変化に対応すること」。統合後の方針には「AI・ICTへの積極的な投資」と明記されています。AIが単独の施策ではなく、再編の理由として正面から書かれた。日本の準大手でこれが起きたのは今回が初めてです。
仰星は2025年10月31日に、生成AIの活用事例をAWSの公式ブログで公開しています。対象はリスク評価、具体的には「固有リスク要因の洗い出し作業」で、作業時間を87%削減。役割分担について「生成AI側では情報収集・分析を行い、人間で最終的な監査リスクの判断を行うことで役割分担を明確化」と書いています。調書作成でも証憑突合でもなく、リスク評価という上流に入った点で、準大手のなかでは最も踏み込んでいます。
三優は、DataSnipperの事例として証憑突合と有価証券報告書レビューでの利用を公開しており、有報レビュー時間が約3分の1になったとしています。ただし発信はツールベンダー側の事例ページで、自法人サイトでのAI発信は確認できませんでした。
【監査法人アヴァンティア】
中堅ですが、今回調べたなかで「中身」に最も近いのはこの1社でした。トップページに「人財とAIへの大胆な投資で真の自由職業人が活躍する監査法人へ」と掲げ、AIを効率化施策ではなく経営方針の中核に置いています。
7月14日には、AIエージェント開発が日本経済新聞に掲載されました。デジタル投資ページに書かれている設計思想が重要です。原文は「チャット型生成AIの弱点である手続内容のブラックボックス化を防止するため、既存技術(OCR・データベース・ルールエンジン)に生成AIを組み合わせたAIエージェント」。現在は証憑突合の自動実行に対応し、将来は分析的手続の自動化へ拡張予定としています。別にデータ分析ツール「THUMGY Data® for Analytics」を持ち、異常点分析や不正検知に使っています。
「LLM単体では監査証拠としての追跡可能性が担保できないから、既存技術と組み合わせる」という判断を公開しているのは、準大手を含めてもこの1社だけです。ただし、では出したものを何をどう検証すれば監査に耐えるのか、という評価の基準そのものの公開には至っていません。設計思想の開示までです。
同社はAI投資と規模拡大を同じ四半期に同時に回しています。7月8日にグループジョイン戦略、7月14日にAIエージェント、8月27日にえひめ有限責任監査法人のグループジョイン決定、10月1日に松山事務所開設。人を集めながら一人あたりの生産性をAIで上げる、という形です。
【太陽有限責任監査法人・東陽監査法人】
いずれも、公式サイトでAI・生成AI・DXに関する発信を確認できませんでした。太陽はNews&Topicsに掲載されている2026年のニュースが書籍出版の告知3件のみ、東陽も直近のお知らせは会計基準・監査実務の情報紹介で、AIの記述はありません。上場クライアント340社を抱える準大手最大規模の法人が、対外的なAI発信をしていない。やっていないのか、発信していないだけなのかは、公開情報からは判別できません。
【HLB Meisei有限責任監査法人】
DataSnipperを導入し、証憑突合・開示チェック・内部整合性チェックに使っています。開示チェック業務の時間が半減。代表者のコメントに、この層の実情がよく出ています。原文は「開示資料の対応も迅速化され、1日以内に作業を終える必要があるケースにも柔軟に対応できるようになりました」。大手が「品質向上」を語るのに対し、中堅は「案件を受けられるかどうか」を語っている。AIがキャパシティの問題として語られています。
【中堅コンサル】
山田コンサルティンググループ、AGSコンサルティング、タナベコンサルティング、プロレド・パートナーズは、いずれもこの期間にAIを冠した新サービスの発表がありませんでした。山田CGは2026年6月から10月のプレスリリース18本を確認してAI言及ゼロ、AGSは7月から10月の6本でゼロ、タナベは8月から9月の新サービス4件がいずれもAI以外です。レイヤーズ・コンサルティングは8月5日に「FP&A×AIで進化する経営管理」セミナーを告知していますが、AIのデモ部分は共催のアバントが担当しています。この層は、AIの「中身」どころか「商材」を持っていません。
【士業向けAI】
エフアンドエムが、この層では最大の販路を持っています。会計事務所専用AI「F&M One GeNNect」は9月3日時点で550事務所超・3,203アカウント超、AI研究会は1,027事務所(2026年6月時点)。社労士向けの「SRAISE」は7月14日提供開始から1か月で400事務所。10月1日には、オフィスステーション Pro のMCPサーバーについて「申請データの作成までを実行(最終的な行政機関への提出・送信前の確認は人間が実施)」と書いています。会員基盤もツールも揃っているのに、売っているのは統合基盤と出来合いのプロンプトで、何を検証すれば監査や税務に耐えるかの基準は公表されていません。
ミロク情報サービスが9月17日に出した「会計事務所白書2026」(n=818、2026年7月実施)の数字が、この層の実態を示しています。生成AIの導入率は会計事務所で39%(2024年)から75%(2026年)へ。一方で、出力内容を「必ず別の情報源で確認」するのは52%、社内ルールが未整備なのが70%。エフアンドエムの調査(n=2,503、2026年7月実施)でも、中小企業の約70%が生成AIを業務利用しているのに、社内ルール策定済みは約10%でした。導入は済んだが検証が空白、という状態が数字で出ています。
【その他】
この層で「レビューの中身」に入っているのは、ジュリオ(ベンサム)と、TKC×宇都宮大学のXAIの2件だけでした。部分的に入っているのがフロンティア・アドバイザリー・アンド・コンサルティング(7月7日のJ-SOX AIエージェント。「網羅性・整合性・カバレッジを自動でチェック」「根拠と確信度を添えて」「不備の重要度や開示の要否といった専門的な判断は、必ず人が確定」)と、Puente(9月25日。「判断は人、準備はAI」、法令をe-Gov等でグラウンディングし「裏取りできない参照はフラグを立てる」、月3,000円/ユーザー・初期33万円と価格も公表)の2件。残りは、辻・本郷ITコンサルティング、キャスター、SoVa、SoLabo、tofu、AIデータを含め、ツールの提供と使い方の指導です。
そしてもう一つ、数えておくべきことがあります。「AIが一次チェックして、人が最終判断する」という言い方を公式表記で使っている事業者は、この層のなかで5件になりました。前回の調査では2件です。3か月で2.5倍。フロンティア・アドバイザリー、キャスター、Puente、ジュリオ・宝印刷、エフアンドエム。周辺のベンダーまで含めると7件です。この言い方は、もう差別化になりません。
<あなたが明日からできること>
【バックオフィスはこう変わる】
いま監査でAIが最も必要なのは、大手ではなく中堅・中小の監査法人です。公認会計士・監査審査会の令和8年版モニタリングレポートは「中小監査法人では、職員に占める非常勤職員の割合が6割程度で推移」と書き、監査契約の辞退について「十分な人員の確保が見込まれないことなどを理由に挙げているケースがみられる」と書いています。監査を受けられない会社が出るのは、受け手が強気だからではなく、人が足りないからです。そして足りない側ほど、AIを載せる土台(電子調書やセキュアな環境)を持っていません。
【バックオフィスが押さえるべきポイント】
自社の監査人がどの規模の法人かで、これから起きることが変わります。準大手以上なら、ツールの導入は進みますが、何を見なくてよいかの基準は示されません。中小なら、そもそもツールが入らないまま人手で回る可能性が高い。どちらにせよ、監査人の側が「AIで見たから大丈夫です」と言ってくれる状況は当面来ません。会社側が自分で、何を確かめたかを説明できる状態を作っておく必要があります。
【今日からの5分トライ】
自社の監査人に、次の定例で聞く質問を一つだけメモしておいてください。「御法人では、仕訳テストや証憑突合にAIを使っていますか。使っている場合、その出力は誰がどこまで確認していますか」。5分で書けます。答えが返ってくれば、来期の監査がどう変わるかが分かります。答えに詰まるようなら、その領域はまだ会社側が自分で説明を用意する必要がある、ということです。
【中長期でこうついていく道筋】
「AIが一次チェックして人が最終判断する」という言い方は、3か月で2件から5件に増えました。この言い方自体は、もう何の情報も持っていません。これから価値が出るのは、その「一次チェック」が何を見たのか、「最終判断」が何を確かめたのかを、具体的に名指しできるかどうかです。自社でも、AIに任せている処理について「何を見たことになるのか」を一行で書けるようにしておく。書けない処理は、まだ任せきれていない処理です。会社を選ぶときも、同じ基準で見てください。
<出典>
出典:[仰星監査法人 トピックス(2026年7月27日)]
https://www.gyosei-grp.or.jp/topics/
出典:[仰星・三優 合併基本合意/日本M&Aセンター(2026年7月27日)]
https://www.nihon-ma.co.jp/news/20260727_1-3746/
出典:[仰星監査法人 生成AI活用事例/AWS(2025年10月31日)]
https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/gyosei-audit-generative-ai-dify-87-percent-efficiency-gain
出典:[BDO三優監査法人 事例/DataSnipper]
https://www.datasnipper.com/jp/customer-stories/bdo-sanyu
出典:[監査法人アヴァンティア デジタル投資]
https://www.avantia.or.jp/quality/digital-innovation
出典:[監査法人アヴァンティア 日経掲載(2026年7月14日)]
https://www.avantia.or.jp/news/media/4764/
出典:[太陽有限責任監査法人 News&Topics(2026年10月4日確認)]
https://www.grantthornton.jp/news-topics/
出典:[東陽監査法人(2026年10月4日確認)]
https://toyo-audit.jp/
出典:[HLB Meisei有限責任監査法人 事例/DataSnipper]
https://www.datasnipper.com/jp/customer-stories/hlb-meisei
出典:[山田コンサルティンググループ プレスリリース(2026年10月4日確認)]
https://www.yamada-cg.co.jp/press/
出典:[エフアンドエム F&M One GeNNect アップデート/PR TIMES(2026年9月3日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000154.000029825.html
出典:[エフアンドエム 中小企業の生成AI活用実態調査/PR TIMES(2026年10月1日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000157.000029825.html
出典:[ミロク情報サービス 会計事務所白書2026/PR TIMES(2026年9月17日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000544.000018493.html
出典:[フロンティア・アドバイザリー・アンド・コンサルティング/PR TIMES(2026年7月7日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000121694.html
出典:[Puente Knowledge Compound Loop/PR TIMES(2026年9月25日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000062.000161935.html
出典:[セブンセンス税理士法人×tofu/PR TIMES(2026年9月28日)]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000181227.html
出典:[公認会計士・監査審査会 令和8年版モニタリングレポート(2026年7月17日)]
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20260717/2026_monitoring_report.pdf
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