■ 結論:AIに「このファイルをあっちに移して」と頼むと、中身が壊れることがあります。ExcelやWord、PowerPoint、PDFといったファイルは、見た目はひとつでも、中身は圧縮された部品の詰め合わせです。この中身がAIの手を経由すると、ほんの数文字ずれただけでファイルごと開けなくなります。しかも、こういう運び方はトークン(AIが読み書きする量の単位)を異常に消費します。ファイルを動かすときは「中身だけもらってAIに作り直させる」か「AIを通さずブラウザやパソコンに直接動かさせる」かのどちらかにするのが正解です。

 

■ 実際にあった話:同じ失敗を2回やりました

1回目は、1枚だけのパワーポイント(17KB、ごく小さいファイル)をメールの下書きに添付してもらったときです。下書きは無事にできていたのですが、添付されたファイルが壊れていました。PowerPointの「修復」機能も効かず、結局そのまま送ってしまいました。

2回目は、Googleドライブにある資料をパソコンのフォルダに保存してもらったときです。「原本そのままがいいだろう」と思ってWord形式でダウンロードさせたら、できたファイルが開けません。中身を検査したら、9つある内部部品のうち3つ(本文・書式・設定)が壊れていました。

このとき初めて分かったのが、1回目はメールの問題ではなかったということです。原因は「ファイルの中身がAIを通ること」そのものでした。

 

■ なぜ壊れるのか:AIはコピー&ペーストをしていません

ここが一番の勘所です。人間がファイルをコピーするとき、中身は一字一句そのまま複製されます。ところがAIは、読んで、書き直しています。

ファイルの中身をAIに渡すとき、意味のない英数字の長い羅列(base64といいます)に変換されます。今回の資料は1本で約20,000文字ありました。UEsDBBQACAgIAA2ZFF0AAAAA… のような、まったく手がかりのない並びです。これを一字も違わず書き写す作業で、数文字ずれました。

そして圧縮されたデータには、余裕(冗長性)がまったくありません。ふつうの文章なら「誤字が1つある文書」で済みますが、圧縮データは1文字ずれるとそこから先が全部読めなくなります。 これが「小さいファイルなのに壊れる」理由です。

 

■ もう一つの理由:トークンをものすごく食います

意味のない英数字の羅列は、AIにとって最も読みにくい形です。日本語の文章はだいたい1文字が1トークン、英語はだいたい1単語が1トークンですが、base64は2〜3文字で1トークンしか進みません。辞書にない並びなので、細切れに刻むしかないのです。

実測すると、資料1本を受け取るだけで約20,000トークン、それを書き出す側でさらに同じくらい。1ファイルで4万トークン前後でした。3本やれば10万を超えます。一方、中身をテキストでもらって作り直す方式なら1本5,000トークン程度で済みました。20倍近く無駄にして、しかも壊れていたわけです。

なお、base64そのものは悪い技術ではありません。メールの添付ファイルは中身がまさにこれで、プログラム同士のやり取りでは完全に標準的な方法です。ただしそれは両端が機械であるという前提の上に成り立っています。真ん中にAIが入った瞬間に、その前提が崩れます。「一般的なやり方だから安全」とは限らない、という一例です。

 

■ 正しい3つの道

中身だけ欲しいときは、ファイルではなく「本文テキスト」をもらいます。そのうえでAIに作り直させます。人が読める文字なら、崩れたとしても一目で分かるので安全です。文言・表・数字・リンクは原本と同じものになります。ただしフォントや色、余白といった見た目は再現されません。

原本そのままが欲しいときは、AIを迂回させます。ブラウザに直接ダウンロードさせるか、自分のパソコン側で動かさせるか、素直に手でダウンロードする。ファイルがAIの出力を通らなければ壊れません。

メールに添付したいときは、本文だけ作らせて、ファイルは自分で添付します。「ファイルはここに置いたので手で添付してください」とパスだけ伝えてもらうのが確実です。

 

■ 忘れずに言っておきたいこと:渡す前に検査させる

1回目の失敗が事故になったのは、確認せずに送ったからです。2回目は渡す前に検査したので、壊れたファイルを渡さずに済みました。

なので、ファイルを作らせたら「壊れていないか確認して」と一言足すのがおすすめです。ファイルが開けるか、元とサイズが一致しているか、AIは機械的にチェックできます。「たぶん入っていると思います」で終わらせないことが大事です。

 

■ まとめ

・Excel・Word・PowerPoint・PDFの中身は圧縮された部品の集まりで、1文字ずれるとファイルごと開けなくなる
・AIはコピー&ペーストではなく「読んで書き直し」をしているので、中身を通すと壊れる。ファイルが小さくても起きる
・base64は2〜3文字で1トークンしか進まない。ファイル1本で4万トークン前後を消費する
・中身だけ欲しいなら「テキストでもらって作り直す」、原本が欲しいなら「AIを通さず直接ダウンロード」
・ファイルを作らせたら「壊れていないか確認して」を必ず一言添える

中身はAIに、ファイルは機械に。