<直近1週間の動き>
【PwC】
9月23日、同じ日に2本が出ました。そして言っていることが逆です。
監査側は、米国のassurance transformation leaderであるShawn Panson氏の発言としてメディアに載りました。原文は「When we do a task once — let’s say the intelligence does it incorrectly or the harness does it incorrectly — we have our humans still checking everything.」。タスクを一度実行したとき、仮にインテリジェンスやハーネスが誤った処理をしたとしても、我々は人間が依然としてすべてをチェックしている。
コンサル側は、AI Assurance LeaderのJennifer Kosar氏が自社ニュースルームに書いています。原文は「As organizations begin deploying portfolios of agents capable of completing multi-step processes and interacting across systems, reviewing each individual action becomes increasingly difficult.」。複数ステップのプロセスを完遂し、システム横断で相互作用するエージェント群を展開し始めると、個々のアクションを一つひとつレビューすることはますます困難になる。そして「The level of oversight and evidence should reflect the significance of the process and the autonomy an agent has been given.」、監督と証跡の水準は、そのプロセスの重要性と、エージェントに与えられた自律性の度合いを反映すべきである、と続けます。
同じ会社が、同じ日に、監査人としては「全部見ている」と言い、アドバイザーとしては「全部見るのは無理だ」と言った。これは矛盾ではなく、立場の違いです。Big4は監査人でもありコンサルでもあるので、どちらの口で話しているかを見ないと判断を誤ります。
なおKosar氏の文章には、証跡について今回いちばん踏み込んだ一文があります。「Accountability that cannot be evidenced is an intention rather than a control.」、証跡で示せない説明責任は、統制ではなく単なる意図にすぎない。そして捕捉すべきものとして「the material actions an agent took, what information it relied upon, where exceptions occurred」を挙げています。
【デロイト】
9月28日、米国のAudit & AssuranceパートナーでDigital Products LeaderのWill Bible氏が「Agentic AI systems in audit」を公開しました。原文は「As agent ecosystems scale, maintaining human oversight can be increasingly difficult.」、エージェントのエコシステムが拡大すると、人間による監督の維持はますます困難になりうる。そして有望な解として「guardian systems」、自律的な意思決定をリアルタイムで監視・検証・監査する監督システムを挙げています。
人の監督を、機械による監督に置き換える方向です。ただしこれも、デロイト自身の監査手続をどう変えるかではなく、クライアント企業がどうAIを統制するかの話です。署名が監査部門のパートナーなので混同しやすい点に注意が必要です。
監査プラットフォームOmniaへのConnected Agentic Intelligence搭載は6月24日の発表で、そこではAIがやるのは「preliminary procedures」、予備的手続であり、成果物は「for professionals to review」、専門家がレビューするためのものと位置づけられています。全件レビューの建て付けです。
【EY】
4月7日のEY Canvasへのエージェント型AI投入が直近の大きな発表で、規模は13万人のアシュアランス専門家と16万件の監査業務、2028年までにエンドツーエンド全業務をAIが支える計画です。文言は「maintain the fundamental role of human judgment, skepticism and insight」、人間の判断・懐疑心・洞察という根本的役割を維持する、だけで、どこまでAIに任せるかの線引きを書いていません。Big4のなかで最も曖昧です。
グローバル公式ニュースルームを7月から10月4日まで確認しましたが、この期間に監査AI・EY Canvasの新規プレスリリースはありませんでした。9月に英国勅許会計士協会ICAEWが「How EY embedded AI agents into its audit operations」という記事を出しており、紹介文に「ensures that humans remain in the loop」とありますが、本文は取得できませんでした。
【KPMG】
グローバルのプレスリリース一覧を7月から10月4日まで確認しましたが、この期間にKPMG Clara・Workbench・監査AIに関する新規発表はありません。「AI and technology in Audit」の常設ページには「95,000+ audit professionals globally using KPMG Clara AI」とあるだけで、人のレビューゲート、承認ワークフロー、閾値に関する記述は一切ありません。
最も近い公式文言は2026年1月公表のFY25 Audit Quality Reportで、「Our approach focuses on embedding AI to handle data-intensive tasks while reinforcing that our auditors are in control of the decision-making process.」、監査人が意思決定プロセスをコントロールしていることを補強する、としています。また「GenAI also automates quality scoring」ともありますが、このスコアが紐づくのはアサーションではなく作業品質です。
【BCG】
6月17日の「The AI-First Finance Function」が、今回の調査で「人が見なくてよい範囲」を最も明示的に定義していました。原文は「humans step away from processing transactions; instead, they handle exceptions flagged by the AI agents」、人間は取引処理から手を引き、代わりにAIエージェントがフラグを立てた例外を処理する。そしてCFOは「intervention thresholds, the criteria that trigger a referral to the human finance team」、介入閾値、つまり人間の経理チームへの差し戻しを発動させる基準を定義しなければならない、としています。逆方向から「no-AI zones」、AIを使わない領域の設定も推奨しています。
ただしこれはコンサルの発信であって監査ではありません。そして閾値が紐づく先は、アサーションではなく人へのエスカレーション基準です。
【Genpact】
9月1日、エージェント型のRecord-to-Report Suiteの一般提供を開始しました。数字が具体的です。「Up to 99% of intercompany breaks resolved in real time」、連結会社間の差異の最大99%をリアルタイムで解消。「First-pass reconciliation yield of more than 95%」、初回照合一致率95%超。そして「Audit-ready controls by design」として「preventive controls, real-time validation, and always-on automated certification」、常時稼働の自動認証を挙げています。
照合の承認行為そのものを自動化している、と読めます。今回の調査で「人の承認を機械が代替する」と最も踏み込んだ記述でした。ただし「人間がレビューしない」とは一言も書いていません。成果率の数字で示しているだけです。
【IBM】
9月30日、2026 CFO Studyを公表しました。33の国・地域、26業種、CFO 1,500人への調査(2026年2月から4月実施)です。最も重要な数字はこれです。「定義されたガードレール内でAIが再配分を推奨・実行することを許しているCFOはわずか6%」。市場全体では、「人が見ない範囲」はまだほとんど確立されていない、ということを実測で示しています。なお回答者にはダイキン工業、ヤマハ発動機、アドバンテストのCFOのコメントが掲載されていますが、これは日本企業がグローバル調査に登場しているだけで、製品の日本展開ではありません。
【その他】
Bainは4月12日のレポートで、AI予測と既存のボトムアップ計画が並走する状態について「neither fully trusted」、どちらも完全には信頼されていない、と書いています。そして自律実行を導入する前に「Map the handoffs, approvals, and exception paths」、引継ぎ・承認・例外経路をマッピングせよ、としています。マッキンゼーはCFO向けのAI記事で人のレビュープロトコル・閾値・監査証跡・統制のいずれにも触れていません。Infosys BPMは「human-driven, AI-supported model to an autonomous AI-first approach」への移行を明言し、Wiproは「autonomous decision-making」を財務ワークフローに持ち込むとしていますが、両社とも人の監督メカニズムや監査証跡の記述がありません。Capgemini、Accenture、TCS、Cognizantについては、この期間の経理財務特化の個別発表を特定できませんでした。これは「動きがなかった」ではなく「確認できなかった」です。
そして全件を通じて、日本法人での展開発表・日本語発表・J-GAAP対応の明示は一件も確認できませんでした。
<あなたが明日からできること>
【バックオフィスはこう変わる】
同じ会社が、立場によって正反対のことを言う時代になりました。監査人としては「全部人が見ている」、コンサルとしては「全部見るのは無理だ」。どちらが本音かという話ではなく、監査には監査の責任があり、業務改善には業務改善の都合がある、というだけのことです。ただし発注する側から見ると、同じブランドの提案書に書いてあることが逆になりうる、ということでもあります。
【バックオフィスが押さえるべきポイント】
提案を受けたら、最初に「これは監査人の立場で書かれた文書か、コンサルの立場で書かれた文書か」を確かめてください。そのうえで、閾値の話が出てきたら、その閾値が何に紐づいているかを見る。BCGの介入閾値は人への差し戻し基準、Genpactの95%は処理の歩留まり、KPMGのスコアは作業品質です。どれも「会計上、何を確かめたことになるか」には紐づいていません。閾値があることと、その閾値に会計的な根拠があることは、別の話です。
【今日からの5分トライ】
自社が使っている、あるいは検討しているグローバルベンダーの資料を一つ開いて、「assertion」または「アサーション」という語があるか検索してみてください。5分で終わります。ほとんどの資料にはありません。あった場合は、それが成果物の分類として使われているのか、自動化の判断基準として使われているのかを見てください。今のところ後者はほぼ存在しません。
【中長期でこうついていく道筋】
IBMの調査で、ガードレール内でのAIの自律実行を許しているCFOは6%でした。裏を返せば、94%はまだ自分で見ています。つまりこの2、3年は、「AIに任せた範囲」よりも「人が見た範囲をどう説明するか」のほうが先に必要になります。自社の決算プロセスのうち、AIが関与している工程を一覧にして、それぞれについて「誰が、何を見て、どこに記録したか」を書けるようにしておく。グローバルベンダーの機能が日本に降りてくるのはそのあとです。今回の調査では、どの大手の発表にも日本展開の言及がありませんでした。
<出典>
出典:[Accounting Today「PwC puts guardrails on AI」(2026年9月23日)]
https://www.accountingtoday.com/news/pwc-puts-guardrails-on-ai
出典:[PwC US「Operationalizing trust in agentic AI」(2026年9月23日)]
https://www.pwc.com/us/en/about-us/newsroom/operationalizing-trust-in-agentic-ai.html
出典:[Deloitte US「Agentic AI systems in audit」(2026年9月28日)]
https://www.deloitte.com/us/en/services/audit-assurance/blogs/accounting-finance/agentic-ai-systems-audit-reshaping-enterprise.html
出典:[Deloitte Omnia Connected Agentic Intelligence(2026年6月24日)]
https://www.deloitte.com/global/en/about/press-room/unveils-connected-agentic-intelligence-omnia-advance-audit-assurance.html
出典:[EY Canvas エージェント型AI(2026年4月7日)]
https://www.ey.com/en_ca/newsroom/2026/04/ey-launches-enterprise-scale-agentic-ai-to-redefine-the-audit-experience-for-the-ai-era
出典:[ICAEW「How EY embedded AI agents into its audit operations」(2026年9月)]
https://www.icaew.com/insights/viewpoints-on-the-news/2026/sep-2026/how-ey-embedded-ai-agents-into-its-audit-operations
出典:[KPMG「AI and technology in Audit」(2026年10月4日確認)]
https://kpmg.com/xx/en/what-we-do/services/audit/ai-and-technology.html
出典:[KPMG FY25 Audit Quality Report(2026年1月)]
https://kpmg.com/kpmg-us/content/dam/kpmg/pdf/2026/2025-audit-quality-report.pdf
出典:[BCG「The AI-First Finance Function」(2026年6月17日)]
https://www.bcg.com/publications/2026/the-artificial-intelligence-first-finance-function
出典:[Genpact Agentic Record-to-Report Suite(2026年9月1日)]
https://media.genpact.com/2026-09-01-Genpact-Launches-Agentic-Record-to-Report-Suite-to-Improve-Finance-Productivity,-Controls,-and-Close-Predictability
出典:[IBM 2026 CFO Study(2026年9月30日)]
https://newsroom.ibm.com/2026-09-30-ibm-study-as-ai-scales-enterprise-wide,-cfos-play-an-expanded-role-in-transformation
出典:[Bain「CFOs Funded the AI Revolution. Now They’re Joining It.」(2026年4月12日)]
https://www.bain.com/insights/cfos-funded-ai-revolution-now-they-are-joining-it/
出典:[Infosys BPM「AI Agents to Revolutionize Finance and Accounting Services」(2025年5月30日)]
https://www.infosys.com/newsroom/press-releases/2025/revolutionize-finance-accounting-services.html
出典:[Wipro Gartner Magic Quadrant for F&A BPO リーダー選出(2026年6月)]
https://www.wipro.com/analyst-speak/wipro-named-a-leader-in-the-2026-gartner-magic-quadranttm-for-finance-and-accounting-business-process-outsourcing/
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管理部門の業務をAIが担う仕組みを研究。汎用LLMで足りる部分と、自社で作り込む
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