AIを使い始めて間もない方と話すと、かなりの確率で同じ言葉が出てきます。「AIに任せると、自分で考えなくなるから怖いですよね」。

半分は、そのとおりだと思います。ただ、残りの半分は逆です。実際に使い込んでいくと、考える量はむしろ増えます。今回は、この食い違いがどこから来るのかを書いてみます。

 

1.消えるのは、手順のほうです

まず、当たっている半分から。

AIに任せると、どの資料から手をつけて、どの順で処理して、どこで突き合わせるか、という段取りを組む作業はたしかに消えます。ここを否定しても始まりません。消えます。

ただ、消えるのはそこまでです。そして、その手順を自分で組んでいた時間は、本当に考えていた時間だったのか、というのは一度振り返ってみてもよいところだと思っています。多くは、手が覚えた順番をなぞっていた時間ではなかったでしょうか。

 

2.増えるのは、判定のほうです

消えた時間は、どこへ行くのか。出てきたものの良し悪しを判定する側に移ります。

この数字はおかしくないか。この論点が抜けていないか。この説明で監査法人に通るのか。そして、ここが重いのです。決まった手順をなぞるより、他人が出してきた答えに目を通して、良いか悪いかを自分の責任で言うほうが疲れます。自分で作るよりレビューのほうが神経を使う、という感覚は、経理をやってこられた方ならお分かりいただけると思います。

ですので、正確には、思考が減ったのではなく、思考する場所が後ろにずれている。そう見るほうが実態に近いのではないでしょうか。

 

3.渡せないものは、渡さなくて大丈夫です

「では、やり方が分からない人でいいのか」という反論が当然に出ます。もっともです。

ここは、Howを二つに分けると整理がつきます。どのファイルを開いてどこに貼るか、という手順のHow。もう一つは、なぜその順なのか、この数字が動くとどこが連動して狂うのか、という筋のHowです。

渡していいのは前者です。担当者が代われば変わりますし、システムが入れ替わればまるごと書き換わります。渡せないのは後者です。これが無いと、AIの出力を見ても合っているかどうかが分かりません。

そして、筋のHowはAIに任せても消えません。むしろ、任せるほど要求されます。「ここが違う」と言うためには、なぜそうなるはずなのかを自分が持っている必要があるからです。手順を渡した人ほど、筋を問われます。

 

4.ひとつだけ、心配が当たる場面があります

例外を一つだけ挙げておきます。育成です。

筋のHowは、手順のHowを何度かやった経験から育つ面があります。転記を間違えて、合わない理由を探して、ようやく構造が分かる。あの遠回りが元になっているのは否定できません。

ですので、経験の浅い方には、構造が見える工程を一つか二つ、手で動かす区間として残しておくのが現実的だと考えています。ただし、これは人の育て方の話であって、長年やってこられた方がご自身の専門をAIに任せない理由にはなりません。

 

おわりに

明日、一つだけ試していただけるとすれば、これです。ご自身がいちばん詳しい仕事を一つ選んで、その手順をAIに説明させてみてください。おそらく、どこかで違和感が出ます。その違和感が、あなたの筋のHowです。

 

AIに任せて失われるのは、思考そのものとは言い切れません。失われるのは手を動かす手ごたえのほうで、思考は、もう少し後ろに移っているだけではないでしょうか。

ISAO国際公認会計士事務所 加藤 勲
事務所では会計BPOをお引き受けしつつ、ISAO株式会社では管理部門のAI化のご支援をしています。

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