収益認識ポジションペーパー作成をAIエージェント化
―― ドラフト・レビュー工数を75%以上削減し、"監査に耐える証跡"を維持
創薬研究支援CRO(受託研究)を手がける ある創薬支援事業会社(以下「同社」)は、ISAO株式会社の支援のもと、収益認識ポジションペーパー(PP)の作成業務にAIエージェントを導入しました。月100件以上にのぼる契約の収益認識判定を、品質と監査証跡を保ったままAIがドラフトする仕組みを構築し、ドラフト・レビュー工数を75%以上削減しています。
- 業種
- 創薬研究支援CRO(受託研究)/社名非公開
- ご支援領域
- 収益認識ポジションペーパー(PP)作成のAIエージェント化
- 対象業務
- 月100件以上の契約における収益認識判定(企業会計基準第29号・5ステップ)
- 導入ツール
- Microsoft 365 Copilot
- 主な成果
- ドラフト・レビュー工数を75%以上削減/監査証跡の維持/会計判断の脱・属人化
当時抱えていた課題・背景
同社は創薬研究の受託を主力とし、契約ごとに「いつ・どの履行義務で売上を計上するか」を収益認識会計基準(企業会計基準第29号)の5ステップに当てはめて判断する必要があります。その判断根拠を契約条番号付きで残した文書がポジションペーパー(PP)であり、監査対応の一次証跡になります。
対象となる契約は、月に100件以上。毎月、新規締結契約を洗い出し → 標準パターンに当てはまるか判定 → 当てはまらないものはPPを個別作成 → レビュー → 保管、という流れを人手で回しており、限られた人数で捌くには限界がありました。
- 1件ごとに5ステップの該当性を検討し契約条文に当たって結論を出す工数が、月次決算と並行してのしかかっていた
- 高度な会計判断の属人化(「複数の履行義務か」「一時点か一定期間か」といった判断)
- 担当者が代わるたびにノウハウ継承が難しいという持続可能性の問題
ISAOの選定理由
同社がISAOを選んだ理由は、単なる「AIツールの導入」ではなく、会計の実務判断そのものをAIに乗せられる設計力にありました。
- ISAOの代表は、監査法人で監査を担った経験だけでなく、上場企業の経理部長も歴任した公認会計士。監査する側・される側の双方を知り、現場で積み上げた実務ナレッジがあるからこそ、机上の理屈ではなく実務に基づいた収益認識のAI設計ができること
- AIを単なる「ITツール」として据えるのではなく、ある意味"人間(外注先)"として扱う発想。「外注先が作った成果物を、発注者がきちんと確認する」という体制に落とし込み、人が確認するという従来の内部統制構造を壊さず、むしろうまく活かしたこと
- 汎用的な生成AIをそのまま使うのではなく、同社の契約パターンと会計判断のルールを実装した、業務特化型の仕組みを一緒に作れること
導入して得た効果 ―― 工数を75%以上削減
すべての契約を、履行義務の数と認識時点に応じた4パターン(A〜D)に自動分類し、それぞれの妥当性割合をAIが算出する仕組みを構築しました。
得られた主な効果は次のとおりです。
- 契約の多くを占める単純な類型はAIが自動でドラフトし、人は確認に集中。ドラフト・レビュー工数を75%以上削減
- アダプティブHITL(Human-in-the-Loop)の設計により、判断が分かれる類型や妥当性割合が低いものだけを人が重点的に確認。難解な案件は外部会計士へエスカレーションし、最終的に財務責任者が確認する多層構造を維持
- AIの判定を「○○%だから見ない」という数字ではなく、「残りの懸念はこの契約条項にある」というアラート方式で示すことで、レビュアーがどこを見ればよいかをトレースでき、監査上も腹落ちしやすい形に
「Aであることを確認する」より「A以外でないことを潰す」というレビュー設計に切り替えたことで、取りこぼしを防ぎながら効率を上げられた点が、現場の納得感につながっています。
今後の展望
PP作成の効率化は、あくまで出発点です。ISAOはいま、この仕組みをほかの管理業務領域へ広げること、そして「常時監査(リアルタイム監査)」のように、会計判断そのものをAI前提で再設計するという、より大きなテーマにも取り組んでいます。決算時の一括チェックから契約発生のつどの判定へ、サンプリングから全件精査へ——複数の分野で、まさに今、課題解決を進めている最中です。
ちょっとした裏話
AIを導入しても、人が契約書を見る作業がなくなったわけではありません。むしろ同社の現場では、契約を結ぶ前の担当者、請求書を発行する担当者、ポジションペーパーを作る担当者……と、もともと何重にも人の目が入る仕組みになっていました。ご担当者は「AIにかけながら、自分でも契約書を見ている」「請求書を作るときに必ず契約書を見るので、まったく見ないまま売上を計上することはない」と話します。
AIが変えたのは、その"見る"作業のスピードでした。以前は1件の契約書を読み込むだけで1時間かかることもありましたが、プロンプトのおかげで大幅に短縮。人の判断を消すのではなく、人の判断を速く・軽くした——それが、現場に自然と根づいた一番の理由かもしれません。
